*第64回都民塾のご報告*

2018年11月22日

第64回都民塾(呼び掛け人 立石晴康前東京都議会議員)が、平成30年11月22日(木)午後6時半から中央区の築地本願寺講堂で開かれた。
 
講師は、ベストセラー「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?―経営における『アート』と『サイエンス』」(光文社新書)の著者、山口周先生で、著書の内容を中心に講演された。
 


山口先生は、1970年、東京生まれ。慶應大学文学部・同修士課程修了。電通などを経て組織開発・人材育成を専門のコンサル会社に勤務。
 
今回は、山口先生の本著を禄を食む大学専門紙の「書評」に書いたので、この書評を再録し、講演後の質疑応答で聞きたかったことに対する山口先生の応答を紹介する。書評から。
 
<グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込む、ニューヨークやロンドンの知的専門職が、早朝のギャラリートークに参加する。彼らは功利的な目的で「美意識」を鍛えているという。
 


なぜか?<今日のように複雑で不安定な世界では、「理論と理性」に軸足をおいて経営すれば、必ず他者と同じ結論に至り、必然的にレッドオーシャン(血で血を洗うような激しい価格競争が行われている既存市場)で戦わざるを得ない>
 
「美意識の高い(直観力のある)人間をトップまたは決定権を有するポジションに据え、両脇をサイエンスとクラフトで固めパワーバランスを均衡させるべき」とし、本当の意味での差別化が求められる時期に来ていると具体例を示す。
 
80年代のアップルの急成長を支えたのは、アートで引っ張るトップ(スティーブ・ジョブズ)とサイエンスとクラフトで支える側近(ジョン・スカリー)の構造。マッキンゼーがデザイン会社を買収したのは、<コンサルタント会社に「アート」を盛り込もうとしている>
 
東芝の粉飾決算、三菱自動車の燃費データ偽装、 電通の新入社員の自殺…。<こうした日本の企業はかつての成功モデルに拘泥したままで新しい戦略やビジョンを生み出せていない。「真・善・美」がなければビジョンとは言えない>
 
ライブドアのLF株の大量購入、DeNAのコンプガチャ問題と米グーグルとを比較。<グーグルは英国の人工頭脳ベンチャーを買収した際、社内に倫理委員会を設置した。日本のベンチャーと比較すれば、会社の哲学として格が違う>
 


どう美意識を鍛えるべきか。「絵画を見る」、「哲学に親しむ」、「文学を読む」、「詩を読む」と論じ、とこう結ぶ。<システムから大きなメリットを得ているエリートが、システムそのものの改変を目指して、美意識を鍛えている。「美意識の復権」の兆しがある>。「美意識の復権の兆し」について僕が質問した際の返事。
 
「外資系企業に入社し、数年で退社して起業する若者が出てきているのも、兆しのひとつ。外資系企業は、哲学を持ち、成功モデルに拘泥せず、新しい戦略やビジョンを生み出している。アート(人間性)を織り込まないと経営は成り立たない時代になっているのは間違いない」。“目から鱗”の講演だった。