*第74回都民塾のご報告*

2019年9月26日

第74回都民塾(代表世話人 野口和久)は、令和元年9月26日(木)午後6時半から中央区の築地本願寺講堂で開かれた。
中秋の名月を迎えるこの月に一噌流能楽師、一噌幸弘(いっそう ゆきひろ)先生をお迎えして、「和風音楽のすばらしさ」をテーマに能管・篠笛等をトークを交えて演奏して頂いた。
 
「能楽は、かぎりなくモノトーンに近い音の具象化である。それは、禅宗の尺八にも通じる、音の日本化ともいえるものだ」。一噌先生のCD『能管 Nohkan 日本伝統音楽の粋』に記されている一文である。
 
一噌先生は、安土桃山時代から続く能楽一噌流笛方、一噌幸政の長男として9歳の時に「鞍馬天狗」で初舞台。能管、篠笛、田楽笛、リコーダー、角笛など笛のもつ可能性を広げた。2004年NHK紅白歌合戦では藤あや子「雪荒野」、2012年NHK歌謡コンサートでは石川さゆり「天城越え」の編曲を手掛けて共演した。
 
一噌先生は、羽織袴姿で登場、壇上の机には、様ざまな能管(竹製の横笛の一つで、能だけではなく歌舞伎、寄席囃子や祇園囃子でも用いられる)や篠笛、リコーダーが20本近く並んだ。能の古典「石橋」の『獅子』の演奏から入った。
 
「獅子が牡丹の花に戯れ舞い狂う」様を能管で演奏。「笛は調律されていないので、吹くたび音程が異なります」と2種類の能管で演奏したり、能楽以前の田楽笛で400年前の音色を聞かせてみせた。
 
続いて、自ら作曲した『美病気(ビヨン)』を披露。「いろんな笛に興味を持って曲を作りました。能楽は8拍子が基本で、高い音をカン、低い音をリョレツと言います。『甲高い』、『呂律が回らない』という言葉の語源になりました」
 
このあと、「案配は、雅楽で音程の調整が難しい『えんばい』という言葉が語源です」など音楽用語から生まれた多くの言葉を紹介、会場を沸かせた。
 
「小学校でリコーダーに出会い、バッハ、ヘンデル、ビバルディの曲を演奏しました」と笛との出会いを語り、アルト、ソプラノ、テノールのリコーダを紹介しながら演奏。牛の角の角笛や自分で作ったという尺八笛(横笛の尺八)も披露。
 
さらに、縦笛を2本、3本、4本と口に一緒にして演奏したり、コップや栄養ドリンクの瓶を笛にして音色を奏でたり…笛の不思議さに会場は圧倒された。「身の回りの物も工夫すれば楽器になります」と、自作の『空乱』を披露した。
 
「皆さんの知っている曲です」と『赤とんぼ』、『オーバー・ザ・レインボー』さらに、リクエスト曲として共演したことのある石川さゆりの『天城越え』、アンコールでバッハの『メヌエット』を披露して会場を魅了した。
 
「雅楽の笛に始まり、日本は笛の国です。最近では、西洋の音楽家も能楽や雅楽の影響を受けて作曲しています」と話すと、会場からは「西欧の音楽が素晴らしいと思ってきたが、本日の笛の演奏を聴いて、そうした考えが変わった」「小学校から笛など伝統音楽を学ばせるべきだ」と言った声が上がった。「禅宗の尺八にも通じる、音の日本化」に出席者は大きな拍手を送った。