都民塾

都民塾だより No.5

 第5回都民塾は、平成25年3月23日(土)午後2時から中央区の日本橋プラザ3階で開催された。講師は中東・エネルギー問題専門家で日本アラブ協会理事、元東京新聞編集委員の最首公司さん。テーマは「『アラブの春』からアルジェリア事件まで」。天皇陛下の皇太子時代、中東情勢についてご進講したというわが国屈指の中東専門家の中身の濃い講演に100人余の出席者も終始圧倒されていた。

 まず最首さんは、事前に用意した配布資料に沿って、2010年12月にチュニジアから始まった中東の民主化運動「アラブの春」のこの2年間を振り返った。一見偶発的に起きたように見えたチュニジアの民主化だが、「チュニジアの記者によると、アメリカがスマートフォンを配って起こしたもの。民主主義を輸出したいアメリカは、イラクやアフガンでは力で失敗したので、今度はインターネットを活用したソフト戦略に切り替えた」と真相を暴露した。

 それがエジプト、リビア、イエーメン、シリア、モロッコ、バハレーン、アルジェリアなどに飛び火し、次々に独裁体制から民主化に向かったものの、出現したのはイスラム主義政党ばかり。「これはアメリカにとって大誤算だった」。なぜ、そうなったのか。「それはアラブの社会構造にある」と最首さんは、ホワイトボードに図を描きながら解説した。

 「その社会構造は、昔からの部族主義のタテ糸と、7世紀にムハンマドがバラバラの部族神を統一したイスラム教というヨコ糸が織り重なっている。そして、そこにネットによる情報の網がかぶせられて『アラブの春』が起きた。ネットの網がなくなれば、その下からイスラムの顔が出てくる」

 さらに話はユダヤ教、キリスト教、イスラム教という三つの宗教の違いへ。

 「イスラエルのユダヤ教は、旧約聖書が教典でアブラハムを『最初の預言者』と呼ぶ。欧米諸国のキリスト教では、イエスを『神の子』と呼び政治と宗教は分離している。これに対しイスラム教は、ムハンマドを『最後の預言者』と呼び、政治と宗教は一体。政教分離と政教一致という根本的な違いがあり、世界ではこの両者の武力による争いが繰り返されてきた」

 そうした背景の中で起きた「アラブの春」だが、アルジェリアでは民主化の動きに対し、実権を握る軍が巻き返しをはかり、今、フランスがテコ入れしている。また政府軍と反政府軍による内戦の続くシリアでは、外部からいろんな勢力が入り込んでお手上げ状態。「こうした中東の混乱をどう落ち着かせるかが今後の課題。

 石油資源を依存している日本は、その解決に協力しなければならない。実は前駐日シリア大使が、本国の混乱で辞職して帰国し、今、その息子さんを私が今預かっている」と、最首さんは自ら中東のために一肌脱いでいるエピソードを披露。日本の中東問題解決への積極的なアプローチの必要性を強調して締めくくった。

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