都民塾

都民塾だより No.79

 第79回都民塾(呼び掛け人 立石晴康前東京都議会議員)が、令和二年2月18日(火)午後6時半から中央区の築地本願寺・第二伝道会館『瑞鳳の間』で開かれた。

 今年の夏も酷暑か、という一抹の不安を感じさせる暖冬の夜。折からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響で参加者の減少も危ぶまれたが、いつものように会場は満席で、講師の千葉大学名誉教授・藤井英二郎氏をお迎えした。『街路樹が都市をつくる』という講演の冒頭、藤井氏は多くのグラフや画像を示し地球温暖化のもたらす近未来を語ってくれた。

 ここ100年で日本の年平均気温は1.24℃上昇した──ということは、このまま推移すれば今世紀末には約4℃というすさまじい上昇となり、熱帯夜は90日続くという。現に2015~18年の4年間、熱中症による死者は3805人で、これは交通事故の死者数と変わらない。そして海水温も約1.5℃上昇するので、昨年、各地に甚大な被害をもたらした規模の大型台風が、四六時中、日本を襲うことになる。

 藤井氏の指摘に、会場は水を打ったような静けさに包まれた。都市のヒートアイランド化は、原因となる「熱」を排出し溜める高層ビルの林立、溜め続ける舗装道路、撒き散らすクルマやクーラーなどによって引き起こされる。地球上の人々は、どう立ち向かうべきか?

 オーストラリアのメルボルンでは街路樹の樹冠(樹木の上部で葉が茂っている部分)によりコンクリートを覆う比率を2040年までに現状22%から40%に増やす。フランスのリヨンは同27%を30年までに30%に、アメリカの多くの都市はこうした比率(樹冠被覆率)を公開し、努力目標を設定し推進する。対策は数値化、見える化しているのである。一方、日本は2015年に改正された道路緑化技術基準にヒートアイランド対策は明記されていない。

 今回の “都市をつくる” というテーマで私たちが今さらながらに知ったのは、街路という概念と街路樹の凄さだった。人やクルマが行き交う街路には、光や風が通る心地よい生活空間を確保する機能や防災機能。電気・上下水道・ガスなどを通すインフラ機能など多面的な機能がある。

 その中でも今日、最も求められているのは脱ヒートアイランド機能で、それには街路樹の活用が効率的・経済的だと藤井氏は説く。東京オリパラに向け都は、街路に遮熱性舗装を施しているが、これだと路面は10℃しか下がらない。一方で街路樹が作ってくれる木陰は、何と20℃も下がり、私たちに涼しく心地よい空間を提供してくれるのである。

 それなら街路樹を整備すれば一気に問題解決なのだが、事はそうは簡単に運ばない。関東大震災の復興事業で整備され、奇跡的な美しい街並みを造り上げた日本人が、大戦後の復興や1964年の東京五輪に向けた都市整備で、効率優先から街路樹を排除したからである。

 藤井氏は落胆を隠さず「日本人の質が落ちている」と訴え、鎮守の杜さえ伐採する現実を引き合いに「箍が外れたように人間が崩壊している」と嘆く。幼児虐待が蔓延する世相を反映してか、古くから支え合い生きてきた街路樹への “虐待” が止まらない。物言わぬ木々への愛情があれば、とても考えられないような金属製の「地下支柱」の存在と表面的な過剰整備を知るに及んで私たちは、人が天に唾する愚かさを教えられた。大事なのは私たち市民が、行政、政治家と連動し、街路樹を生き生きと茂らせる社会を構築していくことなのである。

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