都民塾

都民塾だより No.92

 第92回都民塾(塾長 立石晴康元東京都議、代表世話人 野口和久)が、令和4年6月20日(月)午後6時半から、東京・中央区の築地本願寺2階講堂で、ノンフィクション作家の島村菜津さんを講師に招き、「世界的な食糧危機が叫ばれる今、日本の『食の安全』を考える」をテーマに開かれ、出席者は熱心に聞き入った。

 島村さんは、東京藝術大学美術学部卒業後、イタリアへ留学。国際的なムーブメントになったスローフード運動をイタリアで五年に渡って取材。ファストフードに対抗し、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動を、著書『スローフードな人生!』(新潮社 2000 年)で紹介して日本で一大ブームを巻き起こした。

 島村さんは「食糧不足の要因は戦争だけではない。異常気象、人口爆発、農業や漁業の担い手不足、耕作地放棄や関税撤廃、格差や貧困などがある。大量生産、大量消費は止められないが、自分たちの文化を守ろうとスローフード運動が起こった。地球を救うのは、多様性にある。私たちは、改めて足元とローカルの面から見直すのが重要だ」と話し始めた。

 そして、日本の「食の現状」を理解するキーワードをあげながら説明した。「先進国の中で日本の食料自給率は低迷している。これは、自給率を算出する際に使う単位を戦後の食料政策である『カロリーベース』を使っているためのトリックだ。食料政策を考える上で日本最大の課題は『食品ロス』であり、欧米にはない賞味期限も影響している」

 続いて、温暖化=異常気象の影響で人間が壊した自然の再生としてのSDGs にも適う政策『みどりの戦略』を紹介、「こうした取り組みは子どもたちの未来を救うだろうか」、「魚が獲れなくなった日本で、『水産資源管理』は漁業の復活に寄与するだろうか」と問題提起。

 このあと、スライドを使って日本や世界のスローフードを紹介。①山形県米沢市の豪雪地帯で、冬に栽培される在来野菜、雪菜を守る農家②イタリアのカンパーニャ州の一切改良されていない「赤い宝石」と呼ばれるトマトの栽培。肉厚で「皮が美味しいトマト」として絶大的な人気③三年間の禁漁、操業期間短縮など漁獲量管理で守った秋田県のハタハタと魚醤の復活④給食を100%有機米に変えた千葉県いすみ市の「次の世代のための食」という哲学⑤グアテマラ、エクアドルの高山コーヒー農家の暮らしと日々の一服の5つで、「食に携わる人を見つけ、応援する意識を持ってほしい」と呼びかけた。

 最後に、日本が「食の安全」を確立するための処方箋を述べた。「スローフードは食がつなぐ世界への知、というスローガンがあります。グアテマラでは、大手コーヒー会社の大量生産=価格操作に対抗してオーガニックコーヒーの生産が盛んです。一人ひとりが意識を変えることで世界は変わります。それには、農業や漁業を改めて文化、政治、環境、経済の視点から説き直すことではないでしょうか、今後とも、みなさんと一緒になって、この課題に取り組んでいきたいと思います」

 講演の後、質疑応答があり、出席者は最後まで熱心に耳を傾けた。

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