都民塾

都民塾だより No.99

 第99回都民塾(名誉塾長 立石晴康元東京都議、代表世話人 野口和久)が、令和5年4月18日(火)の午後6時半から、東京都中央区の築地本願寺2階・講堂で、神奈川大学法学部・法学研究科教授、大庭三枝(おおば・みえ)先生を講師に招き「地域プレイヤーとしてのASEAN諸国、日本はどう関与すべきか」をテーマに開かれた。

 大庭先生は1968年東京生まれ。国際基督教大学卒業。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院助手、東京理科大学准教授および教授、南洋工科大学(シンガポール)客員研究員、ハーバード大学日米関係プログラム研究員などを経て2020年4月より現職。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)は、東南アジア諸国が加盟する地域機構であり、今はASEAN諸国と東南アジア諸国がほぼ同じ意味で使われる。さらに東ティモールが今年11月に正式加盟し、ASEAN11が実現する見通しである。今年2023年、日=ASEANは友好協力50周年を迎えたが、大庭先生は日本政府が設置した今後の両者の協力を検討する有識者会合の座長を務め、今年2月には政府に報告書を提出した。

 折しも長野県軽井沢町で開かれていたG7外相会合が大庭先生の講演の日に閉幕。会合ではロシアのウクライナ侵攻が議論されるとともに、インド太平洋の安定にはASEANとの連携が不可欠なこと、またクーデター後混乱するミャンマーの事態を収拾する際のASEANの役割に期待する旨が改めて明記された。このように存在感を強めるASEAN諸国だが、多くの日本人の彼らに対する認識は、実相から程遠いということを大庭先生から学ぶことになった。

 大庭先生の「今日は楽しくお話ししたい」との第一声で始まった講演は、まずマレーシアの首都クアラルンプールに建設中の超高層ビル・ムルデカ118がスクリーンに映し出され、何やら通常とは違うワクワク感に会場が包まれる。大庭先生はこの高層ビルに象徴される発展するASEANの今を、図表を駆使して丁寧に、そしてリズミカルに解説してくれた。

 世界は今、ITを伴ったグローバル化により国境を越えたモノ造りが加速、生産拠点が分散化している。その過程でASEAN諸国はかつての日本のように段階を踏んで成長していくのではなく、リープフロッグ(蛙飛び)型発展を遂げてきた。都市には人口が集中し、公共交通網が整備され、いわゆる中間層が育ってきたことで豊かさを享受する世代が生まれ、それに対応するさまざまなベンチャーも誕生している。これが発展のループを描いており、完成すれば東京スカイツリーを抜いて世界第2位の高さになるムルデカ118がいわばASEAN諸国の勢いを象徴している。

 大庭先生は、多様な民族・言語・宗教が存在することによるASEANの多様性、いわば“まとまりの悪さ”を強調する。歴史的にこの地域は、戦時中の日本統治3年間を除いてひとつの帝国・王国として統一されたことがなく、脱植民地化以後も紛争が絶えなかった。しかしだからこそ自分たちの関係を安定化させる装置が必要という「大人の知恵」から、1967年にASEANを設立したのである。

 失敗したらこだわりなく切り替えるという腰の軽さはIT時代の発展に適合し、今や日本のGDPの7割に迫る勢いである。その外交戦略も自由主義か権威主義かといった単純な色分けには与せず、白でもなく黒でもないグレーゾーンでバランス感覚を維持している。植民地支配を強いられた欧米への反感、一方で力による侵攻の被害者だった体験から来るロシアの侵略行為そのものへの忌避感。圧倒的な中国との経済的関係を緊密化しながらも一定の自立性を保ち、独自性を追求しようとしているのである。

 そのASEAN諸国は今、人権や環境問題にも強い関心を示している。最低賃金を上げろという声は今や最貧国と言われるラオスからも聞こえ、日本の技能実習生制度のような目的と実態がかけ離れている施策は通用しなくなることを意味している。支援するのでもなく、利用するのでもなく、これからは「面白がって一緒に遊ぼう!」が大庭先生流のASEAN諸国との付き合い方ということのようである。

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