都民塾

都民塾だより No.100

 都民塾(名誉塾長 故立石晴康元東京都議、代表世話人 野口和久)の第100回目が、令和5年6月12日(月)午後6時半から、東京・中央区の築地本願寺2階講堂で、元目白大学教授・マザー・グース研究者の鷲津 名都江さんを講師に招き、「英国社会に深く根づいた伝統の力強さを“マザー・グース”に観る」をテーマに開かれた。

 鷲津さんは、青山学院大学文学部英米文学科ならびに教育学科卒業。1986~1990 年、ロンドン大学教育学研究所に留学。英語英文科母語教育専攻修士課程修了、MA。4 歳より「小鳩くるみ」の芸名でビクター専属歌手。英国留学以降は、マザー・グース研究、イギリス児童文学研究に専念。『わらべうたとナーサリー・ライム』(晩聲社)など著作は多数。

 鷲津さんは「築地本願寺は懐かしい所です。聖路加病院の近くにビクターのスタジオがあり、このへんを通っていました」と「小鳩くるみ」時代を思い出すかのように話し始めた。

 「皆さんは、イギリスを伝統の国とお思いでしょうが、コロナ禍前に訪ねたロンドンはずいぶん変わりました。私が留学していた37,8年前にはロンドン市内からテレコムタワーが見えましたが、ロンドン五輪を契機に高い建物が林立、見えなくなりました。先日戴冠したチャールズ国王は私と同世代で、皇太子時代から環境問題に強い関心がありました」

 本題のマザー・グースの話に入った。「イギリスの本屋さんでマザー・グースの本ありますかでは通じません。ナーサリー・ライムの本、と言えば通じます。マザー・グースはフランスの伝承作家が書いた『昔ばなし集』が英訳された際、その副題も Mother Goose と訳されて定着したものです。ナーサリー・ライムの意味は、子ども部屋の押韻詩(韻を踏んだ詩)で、押韻詩とはラップのようなものです。英語のスキップするような弾むリズムを、イギリスの子供たちはナーサリー・ライムで覚えるのです」

 マザー・グースには、様々なバリエーションがあり、イギリスの伝承と言っても「♪トウインクルトウインクルリトルスター♪」のメロディはフランスの曲の借用です。また、日本のわらべうたとの決定的な違いはジャンルの幅の広さの違いでしょうか。子守歌、文字あそび、遊び歌など共通分野もありますが、なぞなぞ、しりとり、早口ことば、男女の心模様を歌ったものなど、わらべうたには無いジャンルのものも非常にたくさんあり、リアルな人生の実相を知らしめています」

 話は、イギリスの国の成り立ちに移った。「“イギリス”は、日本人だけが呼んでいる国名で、政治的な正式名称はユナイテッド・キングダム(U.K.)、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドからなる連合王国です。日本人は同じ島国としてイギリスに親近感を抱きますが、イギリスは歴史的にみても、各 4 つの国の民族、宗教、文化、言語はそれぞれ違っています。マザー・グースはイングランドの文化です」

 マザー・グースは、英国人の教養の基礎となって深く根付いている。「『不思議の国のアリス』はマザー・グースのパロディだらけですし、ディズニー映画(メリー・ポピンズ、シンデレラ)などでも登場しています。日本では、北原白秋、谷川俊太郎、萩尾望都らが、それぞれのマザー・グースを紹介しました」。こう締めくくった。「マザー・グースは、聖書、シェイクスピアと並んで、英国文化の理解に欠かせないものになっています」。

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