日本橋徒然草

NO.15 人形町商店街

令和2年12月 立石晴康

 山形県米沢市の親戚が人形町商店街の老舗に来たと私の所に寄ってくれました。山形の米沢にないものなんてあるのかなといぶかしく思ったところ、どこに来たの?と聞いたらば、老舗刃物店の「うぶけや」さんに爪切りを買いに来たということでした。うぶけやさんは古い古いお店であることは知っていましたが、親戚がそこまで来てうぶけやさんに寄ったことを繰り返し不思議に思いました。約200数十年の歴史を持つ老舗であり、屋号のうぶけやさんは、創業当時のご主人が打った刃物が、子どもさんのうぶ毛でも剃れると評判を受け名付けられた、と聞かされました。

 また、人形町の商店街では、肉の「今半」さんの店の前で、同級生の静岡県由比町の友人Y.Hさんが友人二人といるところで出会いました。友人は、立石君、何してるの?と私に問いかけました。もちろん私の方こそ、静岡県の由比町からここに来ている姿を不思議に思って、君こそ何しに来たの?と言ったらば、おいしいお肉のすき焼きを食べに友人と静岡の由比町から来たよ、という事でした。

 100年を超える老舗の今半さんの美味しいすき焼きのお肉は私も大好きなので、何かの事あるごとに今半さんのお肉を日本橋のお土産として持っていきます。店の構えは木造の2階屋で、入母屋(いりもや)づくりの古色蒼然とした、見るからに老舗らしい趣のある店構えです。

 私の先輩から今半さんのあのお店は、昔人形町商店街にはいくつかあった寄席の1つであると聞かされていました。静岡の日本平はこの時期桜えびのかき揚げを美味しく食べに行き、また来たいねと思わせる季節です。人形町の今半さんのすき焼きも、少し寒くなったこの季節に大変美味しい日本の銘品です。

 国交省の役人と都市計画について話し合っていた時、立石さん、人形町にとてもおいしいコーヒー屋の「快生軒」があるよと言われました。快生軒も朝は兜町の証券会社の方々が出社前に経済新聞を広げて、美味しそうにコーヒーを飲んでいる姿を度々散見することができます。午後には芳町の花柳界に出る芸者衆がお座敷の打ち合わせなどをしている姿を、コーヒーを飲みながら、そんな風景こそ下町人形町らしい風景で彼ら(国交省都市計画課)はこの風景を残したいと、これこそ世界に誇るお江戸日本橋人形町の値打ちであると話し合ったことを懐かしく思い出します。

 なんでもかんでも一街区のごとく再開発のビルが林立して、休日には人の出入りのない電気の消えたコンクリートジャングルの墓石みたいな町にはしたくない、と後進の若者たちに話しています。

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