日本橋徒然草

NO.20 老舗

令和3年5月 立石晴康

 日本橋三越の前を中央通りが、新橋・銀座通り、京橋・日本橋三越前から神田須田町方面に抜けています。この三越前の中央通りに直角に交差する道路が御幸通りと言います。皇居から日本橋三越、コレド室町を通過して、堀留、隅田川に至ります。

 この界隈には1657年、振袖火事(明暦の大火)前後からの老舗がひしめいています。例えば、日本橋三越の前進「越後屋呉服店」、鰹節の「にんべん」、果物の「千疋屋」、刃物の「木屋」など、枚挙にいとまがありません。

 私の家庭には子どもがいないので、孫もいません。しかし甥や姪、近所の若者たちがいつも我が家を訪ねてくれて、賑やかです。

 私の妻が、巻き爪が痛くて足を引きずって歩いているのを見て、友人が、ヤスリで爪を少し削れば足を引きずらずに歩ける。と一案が出ました。

 更に別の友人が、木屋に良い刃物があるよ、とアドバイス。

 すぐに外科医を訪ねて、どうにかならないかとお医者さんに尋ねたら、これは難しい。でも木屋のヤスリで少し爪を削れば、かなり改善されると教えられました。偶然にも友人と同じような事を言われたので、早速木屋に買い物に行こうと思っています。

 5月は晩春。町中が新緑のいい季節になるので、足の痛みを忘れてしまいがちな妻を木屋に向かわせようと考えながら、何故刃物屋なのに木屋というのだろうか。老舗の歴史はどうなっているのかと調べてみました。祖初代創業者が「林九兵衛」という方で、徳川時代に遡って、大阪の薬種商であった林家が江戸に出たので、「林」を分けて「木」屋にした、との伝えがありました。

 先輩がこんなことを教えてくれました。おやつでも饅頭でも分ければ笑顔が増える。の伝えがあります。欲張って独り占めすると、船なら沈んでしまいます。そんな話を今思い出して、なるほど、老舗は大したものだ。「林」を分けて「木」屋にしたのだなと、一人勝手に悦に入っています。

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